日汉对照
伊豆の踊子 伊豆舞女
[日]川端康成 著蒋家义译
第一章
道がつづら折りになって、いよいよ天城峠に近づいたと思うころ、雨足が杉の密林を白く染めながら、すさまじい早さで麓から私を追って来た。
私は二十歳、高等学校の制帽をかぶり、紺飛白の着物に袴をはき、学生カバンを肩にかけていた。一人伊豆の旅に出てから四日目のことだった。修善寺温泉に一夜泊まり、湯ヶ島温泉に二夜泊まり、そして朴歯の高下駄で天城を登って来たのだった。重なり合った山々や原生林や深い渓谷の秋に見とれながらも、私は一つの期待に胸をときめかして道を急いでいるのだった。そのうちに大粒の雨が私を打ち始めた。折れ曲がった急な坂道を駆け登った。ようやく峠の北口の茶屋にたどり着いてほっとすると同時に、私はその入口で立ちすくんでしまった。あまりに期待がみごとに的中したからである。そこに旅芸人の一行が休んでいたのだ。
突っ立っている私を見た踊子がすぐに自分の座布団をはずして、裏返しにそばに置いた。
「ええ…。」とだけ言って、私はその上に腰をおろした。坂道を走った息切れと驚きとで、.ありがとう。.という言葉が喉にひっかかって出なかったのだ。
踊子とま近に向かい合ったので、私はあわてて袂から煙草を取り出した。踊子がまだ連れの女の前の煙草盆を引き寄せて私に近くしてくれた。やっぱり私は黙っていた。
踊子は十七くらいに見えた。私にはわからない古風の不思議な形に大きく髪を結っていた。それが卵型のりりしい顔を非常に小さく見せながらも、美しく調和していた。髪を豊かに誇張して描いた、稗史的な娘の絵姿のような感じだった。踊子の連れは四十代の女が一人、若い女が二人、ほかに長岡温泉の印半纏を着た二十五六の男がいた。
私はそれまでにこの踊子を二度見ているのだった。最初は私が湯ヶ島へ来る途中、修善寺へ行く彼女たちと湯川橋の近くで出会った。その時は若い女が三人だったが、踊子は太鼓をさげていた。私は振り返り振り返り眺めて、旅情が自分の身についたと思った。それから、湯ヶ島の二日目の夜、宿屋へ流しが来た。踊子が玄関の板敷で踊るのを、私は梯子段の中途に腰をおろして一心に見ていた。―あの日が修善寺で今夜が湯ヶ島なら、明日は天城を南に越えて湯ヶ野温泉へ行くのだろう。天城七里の山道できっと追いつけるだろう。そう空想して道を急いで来たのだったが、雨宿りの茶屋でぴったり落ち合ったものだから私はどぎまぎしてしまったのだ。
まもなく、茶屋の婆さんが私の別の部屋へ案内してくれた。平常使わないらしく戸障子
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第一章
山路变得弯弯曲曲,快到天城岭了,雨脚白亮亮地笼罩着杉木林,从山麓迅猛地向我袭来。
我二十岁,头戴高中的制帽,身穿藏青地碎白花纹的上衣和裤裙,肩上挎着一只书包。我独自一人到伊豆旅行已经是第四天了。我在修善寺温泉住了一夜,在汤岛温泉住了两夜,然后穿着高齿的木屐攀登天城山。一路上我陶醉在重峦迭嶂、原始森林和深邃幽谷的秋色之中,可是,有一个期待却让我的心悸动不已,催着我赶路。就在这时候,豆大的雨点开始打在我的身上。我疾步登上曲折而陡峭的坡道,好不容易才来到山岭北口的一家茶馆,吁了一口气,便站在茶馆门口呆住了。因为我所期待的竟然完全实现了:巡回艺人一行正在那里休息。
舞女看见我呆呆地站着,马上让出自己的坐垫,把它翻个身,放在边上。“哦……”我只应了一声,就在坐垫上坐下了。由于刚跑上坡道,气喘吁吁的,再加上有点惊慌,连“谢谢”这句话也卡在喉咙里没能说出来。我和舞女面对面坐在一起,慌忙从衣袖里掏出了香烟。舞女把同行女子面前的烟灰缸移过来,放到我的近旁。我还是没有说话。
舞女看上去大约十七岁。她梳着一个我叫不上名字的大发髻,式样古旧而又奇特,使她那沉静的鹅蛋脸显得非常小,但却匀称柔美,感觉就像稗史里面头发画得异常丰厚的姑娘的画像。舞女的同伴中有一个四十多岁的女人,两个年轻姑娘,还有一个二十五六岁的汉子,穿着印有长冈温泉旅店商号的短褂。
舞女这一行人至今我见过两次。第一次是在我前往汤岛的途中,她们正要去修善寺,是在汤川桥附近相遇的。当时有三个年轻姑娘,舞女提着鼓。我频频回过头去看她们,一股旅人的愁情油然而生。然后是在汤岛的第二天晚上,她们来到了旅馆。我在楼梯当中坐下,聚精会神地观看舞女在大门口的走廊上跳舞。——那天在修善寺,今天晚上在汤岛,那么明天大概要越过天城岭往南去汤野温泉。在天城山二十多公里的山路上一定能追上她们。我就这样浮想联翩匆匆赶路,没想到为了避雨,在茶馆里和她们相遇了,我的心砰砰直跳。
过了一会儿,茶馆的老大娘把我领到了另一个房间里。这房间大概平常不用,没有安门窗。
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がなかった。下をのぞくと美しい谷が目の届かないほど深かった。私は膚に粟粒をこしらえ、かちかちと歯を鳴らして身震いした。茶を入れに来た婆さんに、寒いというと、
「おや、だんな様おぬれになってるじゃございませんか。こちらでしばらくおあたりなさいまし、さあ、おめしものをおかわかしなさいまし。」と、手を取るようにして、自分たちの居間へ誘ってくれた。
その部屋は炉が切ってあって、障子をあけると強い火気が流れて来た。私は敷居ぎわに立って躊躇した。水死人のように全身青ぶくれの爺さんが炉端にあぐらをかいているのだ。瞳まで黄色く腐ったような目を物うげに私の方へ向けた。身の回りに古手紙や紙袋の山を築いて、その紙くずのなかに埋もれていると言ってもよかった。とうてい生物と思えない山の怪奇を眺めたまま、私は棒立ちになった。
「こんなお恥ずかしい姿をお見せいたしまして…。でも、うちのじじいでございますからご心配なさいますな。お見苦しくても、動けないのでございますから、このままで堪忍してやって下さいまし。」
そう断ってから、婆さんが話したところによると爺さんは長年中風を煩って、全身が不随になってしまっているのだそうだ。紙の山は、諸国から中風の療法を教えて来た手紙や、諸国から取り寄せた中風の薬の袋なのである。爺さんは峠を越える旅人から聞いたり、新聞の広告を見たりすると、その一つをも漏らさずに、全国から中風の療法を聞き、売薬を求めたのだそうだ。そして、それらの手紙や紙袋を一つも捨てずに身の回りに置いて眺めながら暮らして来たのだそうだ。長年の間にそれが古ぼけた反古の山を築いたのだそうだ。
私は婆さんに答える言葉もなく、囲炉裏の上にうつむいていた。山を越える自動車が家を揺すぶった。秋でもこんなに寒い、そしてまもなく雪に染まる峠を、なぜこの爺さんはおりないのだろうと考えていた。私の着物から湯気が立って、頭が痛むほど火が強かった。婆さんは店に出て旅芸人の女と話していた。
「そうかねえ。この前連れていた子がもうこんなになつたのかい。いい娘(あんこ)になって、お前さんも結構だよ。こんなにきれいになったのかねえ。女の子は早いもんだよ。」
小一時間経つと、旅芸人たちが出立つらしい物音が聞こえて来た。私も落ち着いている場合ではないのだが、胸騒ぎするばかりで立ち上がる勇気が出なかった。旅慣れたと言っても女の足だから、十町や二十町遅れたって一走りに追いつけると思いながら、炉のそばでいらいらしていた。しかし踊子たちがそばにいなくなると、かえって私の空想は解き放たれたように生き生きと踊り始めた。彼らを送り出して来た婆さんに聞いた。
「あの芸人は今夜どこで泊まるんでしょう。」
「あんな者、どこで泊まるやらわかるものでございますか、旦那様。お客があればあり次第、どこにだって泊まるんでございますよ。今夜の宿のあてなんぞございますものか。」
はなはだしい軽べつを含んだ婆さんの言葉が、それならば、踊子を今夜は私の部屋に泊まらせるのだ、と思ったほど私をあおり立てた。
雨足が細くなって、峰が明るんで来た。もう十分も待てばきれいに晴れ上がると、しき
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朝下望去,美丽的山谷深不见底。我的皮肤上起了一层鸡皮疙瘩,牙齿格格打颤,浑身发抖。我对送茶进来的老大娘说了一声:“真冷啊!”“啊呀,少爷浑身都湿透啦。到这儿来烤烤火吧,来,把衣服烤烤干。”说着,她拉起我的手,把我领到自己的居室。
那个房间装着地炉,一打开拉门便有股强烈的热气扑面而来。我站在门槛边踌躇了。一位像溺死的人那样浑身青肿的老大爷盘腿坐在炉边。他倦怠地朝我这边望望,那双眼睛像是烂了似的,连瞳孔都呈现黄色。在他的身边,旧信和纸袋堆积如山,简直可以说他是被埋在这些废纸里的。我木然呆立着,望着这个山中怪物,实在无法想象他还是个活人。
“让您瞧见这副模样……不过,他是我的老伴儿,您别担心。他样子难看,但是已经不能动弹了,请您忍耐一下吧。 ”
老大娘这样打了个招呼。据她说,老大爷患中风多年,最终全身不遂。这成堆的纸便是寄自各地有关治疗中风的信件,以及从各地购来的药品的纸袋。老大爷向全国各地打听中风的疗法,求购成药,不管是从路过山岭的旅人那里听来的,还是在报纸广告上看到的,他从不曾漏过。这些信和纸袋,他一件也不扔掉,都堆放在身边,望着它们过日子。年复一年,这些破旧的废纸就堆积如山了。
听了老大娘的话,我无话可说,便把身子俯在地炉上。越过山岭的汽车震动着房子。我心想,秋天就这么冷,不久山岭将被大雪覆盖,为什么这位老大爷不下山去呢?从我的衣服上升腾起一股水蒸气,炉火旺得使我头晕脑胀的。老大娘出了店堂,和巡回女艺人闲聊起来。
“哟,上次带来的姑娘已经这么大了吗?变成漂亮姑娘了。你也很好啊。这么标致!姑娘家长得可真快呀。 ”
将近一小时之后,传来了巡回艺人准备动身的声响。我也坐不住了,但只是感到焦躁不安,却没有勇气站起身来。我想,虽说她们习惯了旅途,但毕竟是女人的脚力,即使落后她们一二公里,跑一段路也能追上;可是坐在火炉旁,我仍旧心烦意乱的。不过舞女她们不在身旁,我的幻想反而像得到了解放似的,开始活跃起来。我向送走她们的老大娘问道:
“那些艺人今天晚上住在什么地方呢?”
“这种人嘛,谁知道住在什么地方?少爷。哪儿有客人,就住在哪儿呗。哪会有今天晚上一定的住处啊?”
老大娘的话语带着极其轻蔑的口吻,甚至煽起了我这样的念头:既然如此,今天晚上就让舞女到我的房间里睡吧。
雨脚变小了,山岭明亮起来。虽然老大娘一再挽留我,说再等十分钟,天就放晴了,可是我怎么也坐不住了。
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りに引き止められたけれども、じっとすわっていられなかった。「爺さん、お大事になさいよ。寒くなりますからね。」と私は心から言って立ち上がった。
爺さんは黄色い眼を重そうに動かしてかすかにうなずいた。「旦那さま、旦那さま。」と叫びながら婆さんが追っかけて来た。「こんなにいただいてはもったいのうございます。申しわけございません。」そして私のカバンを抱きかかえて渡そうとせずに、いくら断わってもその辺まで送ると
言って承知しなかった。一町ばかりもちょこちょこついて来て、同じことを繰り返していた。
「もったいのうごさいます。お粗末いたしました。お顔をよく覚えております。今度お通りの時にお礼をいたします。この次もきっとお立ち寄り下さいまし。お忘れはいたしません。」
私は五十銭銀貨を一枚置いただけだったので、痛く驚いて涙がこぼれそうに感じているのだったが、踊子に早く追いつきたいものだから、婆さんのよろよろした足取りが迷惑でもあった。とうとう峠のトンネルまで来てしまった。
「どうもありがとう。お爺さんが一人だから帰ってあげて下さい。」と私が言うと、婆さんはやっとのことでカバンを離した。暗いトンネルに入ると、冷たい雫がぽたぽた落ちていた。南伊豆への出口が前方に小さく明るんでいた。
第二章
トンネルの出口から白塗りのさくに片側を縫われた峠道が稲妻のように流れていた。この模型のような展望の裾のほうに芸人たちの姿が見えた。六町と行かないうちに私は彼らの一行に追いついた。しかし急に歩調をゆるめることもできないので、私は冷淡なふうに女たちを追い越してしまった。十間程先きに一人歩いていた男が私を見ると立ち止まった。
「お足が早いですね。――いい塩梅に晴れました。」私はほっとして男を並んで歩き始めた。男は次ぎ次ぎにいろんなことを私に聞いた。二人が話し出したのを見て、うしろから女たちがばたばた走り寄って来た。男は大きい柳行李を背負っていた。四十女は小犬を抱いていた。上の娘が風呂敷包み、
中の娘が柳行李、それぞれ大きい荷物を持っていた。踊子は太鼓とそのわくを負うていた。四十女もぽつぽつ私に話しかけた。「高等学校の学生さんよ。」と、上の娘が踊子にささやいた。私が振り返ると笑いながら
言った。「そうでしょう。それくらいのことは知っています。島へ学生さんが来ますもの。」一行は大島の波浮の港の人たちだった。春に島を出てから旅を続けているのだが、寒く
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“老大爷,多多保重啊,天快冷了。”我由衷地说了一句,站起身来。老大爷费力地动了
动黄浊的眼睛,微微点了点头。“少爷!少爷!”老大娘喊着追了过来,“您给这么多,实在不敢当。真对不起啊。 ”她抱住我的书包,不肯交还给我。我再三推却,她也不答应,说要把我送到那边。她跟
在我身后,小跑着走了一百多米,嘴里念叨着同样的话:“实在抱歉啊,没有好好招待您。我会牢牢记住您的样子,下次您路过的时候再谢您。下次一定要来呀,可别忘了。 ”我只是留下一个五角钱的银币,她却如此大惊小怪,感动得眼泪都快流出来了。可是我
一心想尽快赶上舞女,老大娘步履蹒跚,让我十分为难。终于来到了山岭的隧道口。“太感谢了。老大爷一个人在家,您请回吧。 ”听我这么说,老大娘才总算把书包递给我。走进阴暗的隧道,冰凉的水滴嘀嘀嗒嗒地落下来。前方,通往南伊豆的出口微微闪着亮
光。
第二章
从隧道出口处开始,山路的一侧围上了刷成白色的栅栏,像一道闪电似的向远方伸延着。极目远眺,在模型一般的山麓上可以望见艺人们的身影。走了不到七百米,我追上了她们一行。但是我不好突然放慢脚步,便装出冷淡的样子,超过了她们。独自走在前面二十米远处的汉子一看见我就停了下来。
“您走得可真快。——正好,天放晴了。 ”我如释重负,开始同这汉子一起走。他不停地向我问这问那。几个女人看见我们谈开了,便从后面疾步赶了上来。
那汉子背着一个大柳条包。四十岁的女人抱着一条小狗。年长的姑娘背着包袱,另一个姑娘提着柳条包,她们各自都拿着大件行李。舞女则背着鼓和鼓架。四十岁的女人渐渐地也和我搭起话来。
“是位高中生呢。”年长的姑娘悄声对舞女说。我回过头去,只见舞女笑着说道:“是呀,这点儿事我懂得的。岛上常有学生来。 ”这一行人是大岛的波浮港人。他们说,春天从岛上出来后,一直在外,由于天冷起来了,
也没有做好过冬的准备,所以打算在下田呆上十来天,然后再从伊东温泉返回岛上去。
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なるし、冬の用意はして来ないので、下田に十日ほどいて伊東温泉から島へ帰るのだと言った。大島と聞くと私は一層詩を感じて、また踊子の美しい髪を眺めた。大島のこともいろいろ尋ねた。
「学生さんがたくさん泳ぎに来るね。」踊子が連れの女に言った。「夏でしょう。」と、私がふり向くと、踊子はどぎまぎして、「冬でも…。」と、小声で答えたように思われた。「冬でも?」踊子はやはり連れの女を見て笑った。「冬でも泳げるんですか。」と、私はもう一度言うと、踊子は赤くなって、非常にまじめ
な顔をしながら軽くうなずいた。「ばかだ。この子は。」と、四十女が笑った。湯ヶ野までは河津川の渓谷に沿うて三里余りの下りだった。峠を越えてからは、山や空
の色までが南国らしく感じられた。私と男とは絶えず話し続けて、すっかり親しくなった。荻乗や梨本なぞの小さい村里を過ぎて、湯ヶ野のわら屋根が麓に見えるようになったころ、私は下田までいっしょに旅をしたいと思い切って言った。彼は大変喜んだ。
湯ヶ野の木賃宿の前で四十女が、ではお別れ、という顔をした時に、彼は言ってくれた。「この方はお連れになりたいとおっしゃるんだよ。」「それは、それは。旅は道連れ、世は情。私たちのようなつまらない者でも、ご退屈し
のぎにはなりますよ。まあ上がってお休みないまし。」とむぞうさに答えた。娘たちは一時に私を見たが、至極なんでもないという顔で黙って、少し恥ずかしそうに私を眺めていた。
皆といっしょに宿屋の二階へ上がって荷物を降ろした。畳や襖も古びてきたなかった。踊子が下から茶を運んで来た。私の前にすわると、真紅になりながら手をぶるぶる震わせるので茶碗が茶托から落ちかかり、落とすまいと畳に置く拍子に茶をこぼしてしまった。あまりにひどいはにかみようなので、私はあっけにとられた。
「まあ!いやらしい。この子は色気づいたんだよ。あれあれ…。」と、四十女があきれはてたというふうに眉をひそめて手拭を投げた。踊子はそれを拾って、窮屈そうに畳をふいた。
この意外な言葉で、私はふと自分を省みた。峠の婆さんにあおり立てられた空想がぽき
んと折れるのを感じた。そのうちに突然四十女が、「書生さんの紺飛白はほんとにいいねえ。」と言って、しげしげ私を眺めた。「この方の飛白は民次と同じ柄だね。そうだね。同じ柄じゃないかね。」そばの女に幾度もだめを押してから私に言った。「国に学校行きの子供を残してあるんですが、その子を今思い出しましてね。その子の
飛白と同じなんでですもの。この節は紺飛白もお高くてほんとに困ってしまう。」「どこの学校です。」
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一听是大岛,我的诗意更浓了,我又望了望舞女漂亮的黑发,问了大岛的种种情况。“有许多学生来游泳呢。”舞女对女伴说道。“是在夏天吧?”我说着回过头去。舞女慌了神,小声回答道:“冬天也……”“冬天?”舞女仍旧望着女伴笑了一笑。“冬天也能游泳吗?”我又问了一遍,舞女脸涨得绯红,表情严肃地轻轻点了点头。“真傻,这孩子。”四十岁的女人笑着说道。到汤野去,得沿着河津川的溪谷顺流而下十多公里。越过山岭之后,山峦和天穹的色泽
都使人想起了南国的旖旎风光。我和那汉子谈个不停,完全亲密无间了。等过了获乘、梨本等小村庄,便可以望见山麓下汤野的茅草屋顶了。这时候,我下决心说要同他们一起旅行到下田。他听了喜出望外。
到了汤野的小客栈前面,四十岁的女人脸上露出向我道别的神情时,汉子就替我说道:“他说要和我们结伴同行呢。 ”“那敢情好。常言道:‘出门靠旅伴,处世靠人缘。’像我们这样微不足道的人让您解解
闷还是可以的。那就请进来休息一下吧。”她漫不经心地回答道。姑娘们一同看了我一眼,显出毫无所谓的样子,并不言语,只羞羞答答地望着我。
我和大家一起登上客栈的二楼,把行李卸了下来。铺席和隔扇又旧又脏。舞女从楼下端茶上来。她坐到我的面前,双颊一下子涨得通红,手哆嗦个不停,茶碗险些从茶托上滑落下来,于是她顺势放在铺席上,茶却已经洒了出来。见她竟这样羞涩难当,我不禁愣住了。
“真德行!这孩子情窦开啦。哎呀呀……”四十岁的女人万分惊讶似的蹙紧眉头,把手巾扔了过来。舞女拾起手巾,窘迫地擦了擦铺席。听了这番出乎意外的话,我蓦地想到自己。我感到在山岭上被老大娘煽起的幻想骤然破碎了。这时候,四十岁的女人细细端详着我,突然说道:“这位书生穿的藏青地碎白花纹上衣可
真不错啊。”“他穿的碎白花纹上衣和民次穿的花纹是一样的。你说是吧?花纹不是一样的吗?”她反复询问身旁的女人,然后又对我说道:“我在老家还有一个上学的孩子,现在想起他
来了。你穿的碎白花纹上衣和我那孩子的是一模一样的。近来藏青地碎白花纹布贵得很,真为难啊。”“上什么学校?”
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「尋常五年なんです。」
「へえ、尋常五年とはどうも…。
「甲府の学校へ行ってるんでございますよ。長く大島におりますけれど、国は甲斐の甲府でごさいましてね。」
一時間ほど休んでから、男が私を別の温泉宿へ案内してくれた。それまでは私も芸人たちと同じ木賃宿に泊まることとばかり思っていたのだった。私たちは街道から石ころ路や石段を一町ばかりおりて、小川のほとりにある共同湯の横の橋を渡った。橋の向こうは温泉宿の庭だった。
そこの内湯につかっていると、あとから男がはいって来た。自分が二十四になることや、女房が二度とも流産と早産とで子供を死なせたことなぞを話した。彼は長岡温泉の印半纏を着ているので、長岡の人間だと私は思っていたのだった。また顔つきも話ぶりも相当知識的なところから、物好きか芸人の娘にほれたかで、荷物を持ってやりながらついて来ているのだと想像していた。
湯から上がると私はすぐに昼飯を食べた。湯ヶ島を朝の八時に出たのだったが、その時はまだ三時前だった。
男が帰りかけに、庭から私を見上げてあいさつをした。
「これで柿でもおあがりなさい。二階から失礼。」と言って、私は金包みを投げた。男は断って行き過ぎようとしたが、庭に紙包みが落ちたままなので、引き返してそれを拾うと、
「こんなことをなさっちゃいけません。」とほうり上げた。それが藁屋根の上に落ちた。私がもう一度投げると、男は持って帰った。
タ暮れからひどい雨になった。山々の姿が遠近を失って白く染まり、前の小川が見る見る黄色く濁って音を高めた。こんな雨では踊子たちが流して来ることもあるまいと思いながら、私はじっとすわっていられないので二度も三度も湯にはいってみたりしていた。部屋は薄暗かった。隣室との間の襖を四角く切り抜いたところに鴨居から電燈が下がっていて、一つの明かりが二室兼用になっているのだった。
ととんとんとん、激しい雨の音の遠くに太鼓の響きがかすかに生まれた。私はかき破るように雨戸をあけて体を乗り出した。太鼓の音が近づいてくるようだ。雨風が私の頭をたたいた。私は眼を閉じて耳を澄ましながら、太鼓がどこをどう歩いてここへ来るかを知ろうとした。まもなく三味線の音が聞こえた。女の長い叫び声が聞こえた。にぎやかな笑い声が聞こえた。そして芸人たちは木賃宿と向かい合った料理屋のお座敷に呼ばれているのだとわかった。二三人の女の声と三四人の男の声とが聞き分けられた。そこがすめばこちらへ流して来るのだろうと待っていた。しかしその酒宴は陽気を越えてばか騒ぎになって行くらしい。女の金切り声が時々稲妻のようにやみ夜に鋭く通った。私は神経をとがらせて、いつまでも戸をあけたままじっとすわっていた。太鼓の音が聞こえる度に胸がほうと明るんだ。
「ああ、踊子はまだ宴席にすわっていたのだ。すわって太鼓を打っているのだ。」
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“普通小学五年级。 ”
“欸,普通小学五年级,实在……”
“上的是甲府的学校。我长年住在大岛,老家却是甲斐的甲府。 ”
休息了一小时之后,那汉子把我领到另一家温泉旅馆。直到那时为止,我满心以为将和艺人们一同住在这家小客栈里。我们离开大街走过一百多米的碎石路和石台阶,过了小河岸边公共浴场旁的一座桥,桥对面便是温泉旅馆的庭院了。
我进入旅馆的室内浴池,那汉子也跟着进来了。他说,他快二十四岁了,老婆两次怀孕,可不是流产,就是早产,孩子死了。因为他穿着印有长冈温泉商号的短褂,所以我原以为他是长冈人。而且从他的相貌和谈吐来看,他是相当有知识的,我便想象着他是出于好奇,或者是迷恋上了卖艺的姑娘,才帮忙拿着行李一路跟来的。
洗完澡我立即吃午饭。早晨八点钟离开的汤岛,这时还不到下午三点钟。
那汉子临走时,从庭院里抬头望着我,和我寒暄了几句。
“拿这个买些柿子吃吧。对不起,我不下楼啦。”说着,我把一包钱扔了下去。他谢绝了,想要走过去,但是纸包已经落在庭院里了,他只好回转身子拾了起来。
“这可不行啊。”他说着把纸包抛了上来。纸包落在茅草屋顶上。我又扔了下去,他就拿走了。
傍晚时分,下起了一场倾盆大雨。群山被染成白茫茫的一片,远近层次迷蒙难辨,前面的小河也霎时间变得混浊昏黄,流水声越发响亮。我想,这么大的雨,舞女们不会来演出了吧,可是我坐不住,又去了两三次浴池。房间里暗沉沉的。与邻室相隔的隔扇上开了一个四方的洞,门楣上吊着一盏电灯,两个房间共用着一盏灯。
咚咚咚咚,在骤雨声中,远处隐隐约约传来了鼓声。我几乎要把窗板抓破似的打开了它,探出身子去。鼓声似乎更近了。风雨击打着我的头。我闭上眼睛侧耳倾听,想知道这鼓声从哪里来,是怎么来的。不久,传来了三弦的声音,传来了女人的呼喊声,还有闹哄哄的欢笑声。我明白了,艺人们被叫到小客栈对面的饭馆里,在宴会上演出去了。可以辨出两三个女人和三四个男人的声音。我期待着那边结束后,她们会到这边来。可是那场酒宴热闹非凡,看样子要一直闹腾下去。女人的尖叫声不时像闪电一般刺破黑夜。我神经紧张,始终敞开门窗,一动不动地坐着。每当听到鼓声,心里就畅快了。
“啊,舞女还坐在宴席上。她坐着敲鼓呢。 ”
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太鼓がやむとたまらなかった。雨の音の底に私は沈み込んでしまった。
やがて、皆が追っかけっこをしているのか、踊り回っているのか、乱れた足音がしばらく続いた。そして、ぴたと静まり返ってしまった。私は目を光らせた。この静けさが何であるかをやみを通して見ようとした。踊子の今夜が汚れるのであろうかと悩ましかった。
雨戸を閉じて床にはいっても胸が苦しかった。また湯にはいった。湯を荒々しくかき回した。雨が上がって、月が出た。雨に洗われた秋の夜がさえざえと明るんだ。はだしで湯殿を抜け出して行ったって、どうともできないのだと思った。二時を過ぎていた。
第三章
あくる朝の九時過ぎに、もう男が私の宿に訪ねて来た。起きたばかりの私は彼を誘って湯に行った。美しく晴れ渡った南伊豆の小春日和で、水かさの増した小川が湯殿の下に暖く日を受けていた。自分にも昨夜の悩ましさが夢のように感じられるのだったが、私は男に言ってみた。
「昨夜はだいぶ遅くまでにぎやかでしたね。」
「なあに。聞こえましたか。」
「聞こえましたとも。」
「この土地の人なんですよ。土地の人はばか騒ぎをするばかりで、どうもおもしろくありません。」
彼が余りに何げないふうなので、私は黙ってしまった。
「向こうのお湯にあいつらが来ています。ーほれ、こちらを見つけたと見えて笑っていやがる。」
彼に指さされて、私は川向こうの共同湯のほうを見た。湯気の中に七八人の裸體がぽんやり浮かんでいた。
ほの暗い湯殿の奥から、突然裸の女が走り出して来たかと思うと、脱衣場のとっぱなに川岸へ飛びおりそうな格好で立ち、両手を一ぱいに伸ばして何か叫んでいる。手拭もない真裸だ。それが踊子だった。若桐のように足のよく伸びた白い裸身を眺めて、私は心に清水を感じ、ほうっと深い息を吐いてから、ことこと笑った。子供なんだ。私たちを見つけ喜びで真裸のまま日の光の中に飛び出し、爪先きで背いっぱいに伸び上がるほどに子供なんだ。私は朗らかな喜びでことこと笑い続けた。頭がぬぐわれたように澄んで来た。微笑がいつまでもとまらなかった。
踊子の髪が豊か過ぎるので、十七八に見えていたのだ。その上娘盛りのように装わせてあるので、私はとんでもない思い違いをしていたのだ。
男といっしょに私の部屋に帰っていると、まもなく上の娘が宿の庭へ来て菊畑を見ていた。踊子が橋を半分ほど渡っていた。四十女が共同湯を出て二人のほうを見た。踊子は
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鼓声一停我就无法忍受,迷失在雨声中。
过了一会儿,不知道是大家在追逐嬉戏呢,还是在绕着圈跳舞,纷乱的脚步声持续了好一阵子。然后,一切又突然重归于寂静。我睁大眼睛,想透过黑暗看清这片寂静意味着什么。我十分苦恼,心想,舞女今天晚上会不会被玷污呢?
我关上窗板,钻进了被窝,可内心仍旧很痛苦。我又去洗澡,暴躁地泼溅着浴水。雨停了,月亮出来了。被雨水冲洗过的秋夜清澄而明净。我想,即使光着脚溜出浴池赶到那边去,也做不了什么。这时已经是两点多钟了。
第三章
次日早晨九点多钟,那汉子就来到我的宿处。我刚刚起床,邀他一同去洗澡。晴空万里的南伊豆正是小阳春天气,涨水的小河在浴池下方沐浴着暄和的阳光。我自己也觉得昨夜的烦恼如梦幻一般,我对那汉子说道:
“昨天晚上热闹得很晚啊。 ”
“怎么,你听见了?”
“当然听见了。 ”
“都是些本地人。这里的人只会瞎折腾,真没意思。 ”
见他一副若无其事的样子,我不言语了。
“那些家伙到对面的浴场来了。——瞧,好像看到我们了,还在笑呢。 ”
顺着他手指的方向,我向河对岸的公共浴场望去。在朦胧的水蒸气中,七八个光着的身子若隐若现。
突然,一个裸体的女人从微暗的浴场里跑了出来,站在更衣场凸出的地方,做出要跳到河岸下的姿势,伸展开双臂,嘴里喊着什么。她赤裸裸的,身上连一条手巾也没有。那是舞女。她伸长了双腿,洁白的裸体犹如一株小泡桐似的,我眺望着,感到有一股清泉涌入心田,不禁深深吁了口气,噗哧一声笑了。她是个孩子。她发现了我们,一时喜不自胜,就这样赤身裸体地跑到了阳光底下,踮起脚尖,挺直身子站着。她还是个孩子呢。我心情舒畅地笑个不停,头脑澄清得像刷洗过一样,嘴边久久地荡漾着微笑。
由于舞女的头发非常丰厚,我一直以为她有十七八岁,再加上她被打扮成妙龄少女的模样,所以我完全猜错了。
我和那汉子回到我的房间,不一会儿,那个年长的姑娘到旅馆的庭院里来看菊花圃。舞女走到桥当中。四十岁的女人从公共浴场里出来,望着她们俩。
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きゅっと肩をつぼめながら、しかられるから帰ります、というふうに笑って見せて急ぎ足
に引き返した。四十女が橋まで来て声を掛けた。「お遊びにいらっしゃいまし。」「お遊びにいらっしゃいまし。」上の娘も同じことを言って、女たちと帰って行った。男はとうとう夕方まですわり込ん
でいた。夜、紙類を卸して回る行商人と碁を打っていると、宿の庭に突然太鼓の書が聞こえた。
私は立ち上がろうとした。「流しが釆ました。」「ううん、つまらない。あんなもの。さ、さ、あなたの手ですよ。私ここへ打ちました。」
と、碁盤をつつきながら紙屋は勝負に夢中だった。私はそわそわしているうちに芸人たち
はもう帰り道らしく、男が庭から、「今晩は。」と声を掛けた。私は廊下に出て手招きした。芸人たちは庭でちょっとささやき合ってから玄関へ回った。
男の後ろから娘が三人順々に、「今晩は。」と、廊下に手をついて芸者のようにお辞儀をした。碁盤の上では急に私の負
け色が見え出した。「これじゃしかたがありません。投げですよ。」「そんなことがあるもんですか。私のほうが悪いでしょう。どっちにしても細かいです。」紙屋は芸人のほうを見向きもせずに、碁盤の目を一つ一つ数えてから、ますます注意深
く打って行った。女たちは太鼓や三味線を部屋のすみにかたづけると、将棋盤の上で五目並べを始めた。そのうちに私は勝っていた碁を負けてしまったのだが、紙屋は、「いかがですもう一石、もう一石願いましょう。」と、しつっこくせがんだ。しかし私が
意味もなく笑っているばかりなので紙屋はあきらめて立ち上がった。娘たちが碁盤の近くへ出て来た。「今夜はまだこれからどこかへ回るんですか。」「回るんですが。」と、男は娘たちのほうを見た。「どうしよう。今夜はもうよしにして遊ばせていただくか。」「うれしいね。うれしいね。」「しかられやしませんか。」「なあに、それに歩いたってどうせお客がないんです。」そして五目並べなぞをしながら、十二時過ぎまで遊んで行った。踊子が帰ったあとは、とても眠れそうもなく頭がさえざえしているので、私は廊下に出
て呼んでみた。「紙屋さん、紙屋さん。」「よう…。」と、六十近い爺さんが部屋から飛び出し、勇み立って言った。
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舞女耸耸肩,像是在说:“会挨骂的,还是回去吧。”便笑了笑,快步往回走去。四十岁的女
人来到桥边,招呼道:“您来玩啊!”“您来玩啊!”年长的姑娘也同样说了一句。她们都回去了。那汉子则一直坐到傍晚。晚上,我正和一个批发纸张的行商下围棋,突然听见旅馆的庭院里传来了鼓声。我想站
起来。“卖艺的来了。 ”“嗯,没意思,那种玩意儿。喂,喂,该你下啦。我下在这儿。”纸商指着棋盘说道,他
完全沉浸在胜负之中了。在我心绪不宁的当口儿,我听见艺人们似乎要回去了,那汉子在庭
院里向我招呼道:“晚上好。”我走到廊下招了招手。艺人们在庭院里相互耳语了几句,然后转到大门口。三个姑娘跟
在那汉子身后,依次说了声“晚上好”,在廊下垂着手,行了个艺妓式的礼。棋盘上瞬间出现
了我的败像。“没法儿了。我认输。 ”“怎么会输呢?是我这方不利嘛。不管哪一步都是细棋。 ”纸商看也不看艺人一眼,逐个数着棋盘上的目数,下得越发谨慎了。姑娘们把鼓和三弦
收拾在房间的角落里,在象棋棋盘上玩起五子棋来。这时我已经输了本该赢的棋,可是纸商仍旧纠缠不休:“怎么样?再下一盘,请再下一盘吧。”但我只是一味地笑着,纸商终于死了心,站起身来走了。
姑娘们向棋盘这边走过来。“今天晚上还要到其他地方演出吗?”“还要去的……”说着,那汉子朝姑娘们望去。“怎么样,今天晚上就到这儿,让大家玩玩吧。 ”“好啊!太高兴了! ”“不会挨骂吧?”“怎么会,反正再走下去也没有客人。 ”于是她们玩起五子棋来,一直玩到十二点多才走。舞女回去之后,我毫无睡意,头脑清醒异常,便走到廊下试着喊道:“老板,老板。 ”“哦……”快六十岁的老大爷从房间里跑出来,精神抖擞地应了一声。
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「今晩は徹夜ですぞ。打ち明かすんですぞ。」
私もまた非常に好戦的な気持ちだった。
第四章
その次の朝八時が湯ケ野出立の約束だった。私は共同湯の横で買った鳥打ち帽をかぶり、高等学校の制帽をカバンの奥に押し込んでしまって、街道沿いの木賃宿へ行った。二階の戸障子がすっかりあけ放たれているので、なんの気なしに上がって行くと、芸人たちはまだ床の中にいるのだった。私は面くらって廊下に突っ立っていた。
私の足もとの寝床で、踊子がまっかになりながら両の掌ではたと顔を押えてしまった。彼女は中の娘と一つの床に寝ていた。昨夜の濃い化粧が残っていた。唇と眦の紅が少しにじんでいた。この情緒的な寝姿が私の胸を染めた。彼女はまぷしそうにくるりと寝返りして、掌で顔を隠したまま蒲団をすべり出ると、廊下にすわり、「昨晩はありがとうどざいました。」と、きれいなお辞儀をして、立ったままの私をまごつかせた。
男は上の娘と同じ床に寝ていた。それを見るまで私は、二人が夫婦であることをちっとも知らなかったのだった。
「大変すみませんのですよ。今日立つつもりでしたけれど、今晩お座敷がありそうでございますから、私たちは一日延ばしてみることにいたしました。どうしても今日お立ちになるなら、また下田でお目にかかりますわ。私たちは甲州屋という宿屋にきめておりますから、すぐおわかりになります。」と四十女が寝床から半ば起き上がって言った。私は突っ放されたように感じた。
「明日にしていただけませんか。おふくろが一日延ばすって承知しないもんですからね。道連れのあるほうがよろしいですよ。明日いっしょに参りましょう。」と男が言うと、四十女も付け加えた。
「そうなさいましよ。せっかくお連れになっていただいて、こんなわがままを申しちゃすみませんけれどー。明日は槍が降っても立ちます。明後日が旅で死んだ赤ん坊の四十九日でございましてね、四十九日には心ばかりのことを、下田でしてやりたいと前々から思って、その日までに下田へ行けるように旅を急いだのでございますよ。そんなことを申しちゃ失礼ですけれど、不思議なご縁ですもの、明後日はちょっと拝んでやって下さいましな。」
そこで私は出立を延ばすことにして階下へ降りた。皆が起きて来るのを待ちながら、きたない帳場で宿の者と話していると、男が散歩に誘った。街道を少し南へ行くときれいな橋があった。橋の欄干によりかかって、彼はまた身の上話を始めた。東京である新派役者の群れにしばらく加わっていたとのことだった。今でも時々大島の港で芝居をするのだそうだ。彼らの風呂敷から刀の鞘が足のようにはみだしていたのだったが、お座敷でも芝居
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“今天晚上下个通宵。先跟你说好啰。 ”我也变得非常好战了。
第四章
我们约定第二天早晨八点钟从汤野出发。我戴上在公共浴场旁边买来的便帽,把高中制帽塞进书包,向沿街的小客栈走去。二楼的门窗完全敞开着,我无意之中走了上去,只见艺人们还都躺在铺席上。我张皇失措,站在廊下愣住了。
舞女就躺在我脚跟前的铺垫上,她满面绯红,猛然用两只手掌捂住了脸。她和那个较大的姑娘睡在一张铺上,昨晚的浓妆还残留着,嘴唇和眼角微微透出红色。这颇具情趣的睡姿不禁让我心荡神驰。她敏捷地翻了个身,仍旧用手掌遮着脸,从被窝里滑了出来,坐到廊下。
“昨晚上谢谢您了。”她说着利落地行了个礼,我站在那里,被弄得手足无措,不知如何是好。
那汉子和年长的姑娘睡在同一张铺上。在看到这之前,我一点儿也不知道他们俩是夫妇。
“真对不起。本来打算今天动身的,但是晚上有个宴会,我们决定推迟一天。要是您今天非动身不可,那就在下田见面吧。我们准备住甲州屋客栈,很容易找到的。”四十岁的女人从铺垫上抬起半截身子说道。我顿时感到像是被人抛弃了似的。
“明天再走不好吗?我不知道妈妈要推迟一天。路上还是有个伴儿好。明天一起走吧。 ”那汉子说完后,四十岁的女人接着说道:
“就这么办吧。您特地要和我们同行,我们却擅自决定延期,实在对不起——明天哪怕天上下刀子也要动身。后天是在旅途中死去的小宝宝的断七日。我早就想着要在下田做断七,这么匆匆忙忙赶路,为的就是在那天之前到达下田。跟您讲这些真是失礼了,但我们特别有缘分,后天也请您来参加祭奠吧。 ”
于是我决定推迟一天出发,走到了楼下。我一边等大家起床,一边在肮脏的账房里跟客栈的人聊天,那汉子邀我出去散步。沿着大街稍稍往南走,有一座很漂亮的小桥。靠在桥栏杆上,他又谈起了自己的身世。他说,他有段时间参加了东京的一个新派剧剧团。现在还经常在大岛港演出。从他们的包袱里像一条腿似的伸出来的就是刀鞘。他还在宴会上模仿新派剧。
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のまねをして見せるのだと言った。柳行李の中はその衣裳や鍋茶碗なぞの世帯道具なのである。「私は身を誤った果てに落ちぶれてしまいましたが、兄が甲府で立派に家の跡目を立て
ていてくれます。だから私はまあ入らない体なんです。」「私はあなたが長岡温泉の人だとばかり思っていましたよ。」「そうでしたか。あの上の娘が女房ですよ。あなたより一つ下、十九でしてね、旅の空
で二度目の子供を早産しちまって、子供は一週間ほどして息が絶えるし、女房はまだ体がしっかりしないんです。あの婆さんは女房の実のおふくろなんです。踊子は私の実の妹ですが。」
「へえ。十四になる妹があるっていうのはー。」「あいつですよ。妹にだけはこんなことをさせたくないと思いつめていますが、そこにはまたいろんな事情がありましてね。」
それから、自分が栄吉、女房が千代子、妹が薫ということなぞを教えてくれた。もう一人の百合子という十七の娘だけが大島生まれで雇いだとのことだった。栄吉はひどく感傷的になって泣き出しそうな顔をしながら河瀬を見つめていた。
引き返して来ると、白粉を洗い落とした踊子が道ばたにうずくまって犬の頭をなでてい
た。私は自分の宿に帰ろうとして言った。「遊びにいらっしゃい」「ええ。でも一人ではー。」「だから兄さんと。」「すぐに行きます。」まもなく栄吉が私の宿へ来た。「皆は?」「女どもはおふくろがやかましいので。」しかし、二人がしばらく五目並べをやっていると、女たちが橋を渡ってどんどん二階へ
上がって来た。いつものようにていねいなお辞儀をして廊下にすわったままためらってい
たが、一番に千代子が立ち上がった。「これは私の部屋よ。さあどうぞご遠慮なしにお通り下さい。」一時間ほど遊んで芸人たちはこの宿の内湯へ行った。いっしょにはいろうとしきりに誘
われたが、若い女が三人もいるので、私はあとから行くとごまかしてしまった。すると踊子が一人すぐに上がって来た。「肩を流してあげますからいらっしゃいませって、姉さんが。」と、千代子の言葉を伝えた。
湯には行かずに私は踊子と五目を並べた。彼女は不思議に強かった。勝継をやると、栄吉や他の女はぞうさなく負けるのだった。五目ではたいていの人に勝つ私が力いっぱいだった。わざと甘い石を打ってやらなくともいいのが気持ちよかった。二人きりだから、初
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柳条包里装着戏装和锅碗瓢盆之类的生活用品。“我最后落到这步田地,耽误了前程,但我的哥哥在甲府出色地继承了家业。所以我是
一个多余的人了。 ”“我一直以为你是长冈温泉的人呢。 ”“是吗。那个年长的姑娘是我老婆。她比你小一岁,十九岁了。在旅途上第二个孩子早
产,没过一星期孩子就断了气,我老婆身体还没有复原。妈妈是我老婆自己的母亲。舞女是
我的亲妹妹。”“哦,你说你有个十四岁的妹妹……”“就是她呀。我实在不想让妹妹干这种营生,但是这里面还有许多缘故。 ”然后他告诉我,他本人叫荣吉,妻子叫千代子,妹妹叫熏。另一个十七岁的姑娘叫百合
子,只有她是大岛人,雇来的。荣吉显得非常伤感,哭丧着脸,久久凝视着河滩。我们回来的时候,看见洗去脂粉的舞女正蹲在路旁,抚摸着小狗的脑袋。我想回自己的
旅馆去,便说道:“来玩吧!”“唉。可是一个人……”“和你哥哥一起来嘛。 ”“马上就来。”不多久,荣吉来到我的旅馆。“她们呢?”“她们怕妈妈唠叨。 ”但是,我们才玩了一会儿五子棋,姑娘们就过了桥,噔噔地跑上二楼来。像往常一样,
她们恭敬地行了个礼,跪坐在廊下,踌躇不前,千代子第一个站起身来。“这是我的房间。来,请不要客气,进来吧。 ”玩了一个小时左右,艺人们到这家旅馆的室内浴池洗澡去了。她们再三邀我同去,可是
有三个年轻女人在,我便搪塞说,我过一会儿再去。舞女很快一个人跑上楼来,转告千代子
的话说道:“嫂嫂说,请你去,她给你搓背。 ”我没去浴池,和舞女下起五子棋来。她下得出奇地好。循环赛的时候,我不费吹灰之力
就打败了荣吉和其他女人。下五子棋,我得心应手,一般人决不是我的对手。而跟她下棋,用不着特地留一手,心情很畅快。
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めのうち彼女は遠くのほうから手を伸ばして石をおろしていたが、だんだんわれを忘れて一心に碁盤の上へおおいかぶさって来た。不自然なほど美しい黒髪が私の胸に触れそうになった。突然、ぱっと紅くなって、「ごめんなさい、しかられる。」と石を投げ出したまま飛び出して行った。共同湯の前におふくろが立っていたのである。千代子と百合子もあわてて湯から上がると、二階へは上がって来ずに逃げて帰った。
この日も、栄吉は朝から夕方まで私の宿に遊んでいた。純朴で親切らしい宿のおかみさんが、あんな者にご飯を出すのはもったいないと言って、私に忠告した。
夜、私が木賃宿に出向いて行くと、踊子はおふくろに三味線を習っているところだった。私を見るとやめてしまったが、おふくろの言葉でまた三味線を抱き上げた。歌う声が少し高くなる度に、おふくろが言った。
「声を出しちゃいけないって言うのに。」
栄吉は向かい側の料理屋の二階座敷に呼ばれて何かうなっているのが、こちらから見えた。
「あれはなんです。」
「あれー謡(うたい)ですよ。」
「謡は変だな。」
「八百屋だから何をやり出すかわかりゃしません。」
そこへこの木賃宿の間を借りて鳥屋をしているという四十前後の男が襖をあけて、ご馳走をすると娘たちを呼んだ。踊子は百合子といっしょに箸を持って隣りの間へ行き、鳥屋が食べ荒したあとの鳥鍋をつついていた。こちらの部屋へいっしょに立って来る途中で、鳥屋が踊子の肩を軽くたたいた。おふくろが恐ろしい顔をした。
「こら。この子にさわっておくれでないよ。生娘なんだからね。」
踊子はおじさんおじさんと言いながら、鳥屋に「水戸黄門漫遊記」を読んでくれとたのんだ。しかし鳥屋はすぐに立って行った。続きを読んでくれと私に直接言えないので、おふくろからたのんでほしいようなことを、踊子がしきりに言った。私は一つの期待を持って講談本を取り上げた。はたして踊子がするすると近寄って来た。私が読み出すと、彼女は私の肩にさわるほどに顔を寄せて真剣な表情をしながら、眼をきらきら輝かせて一心に私の額をみつめ、またたき一つしなかった。これは彼女が本を読んでもらう時の癖らしかった。さっきも鳥屋とほとんど顔を重ねていた。私はそれを見ていたのだった。この美しく光る黒眼がちの大きい眼は踊子のいちばん美しい持ちものだった二重瞼の線が言いようなくきれいだった。それから彼女は花のように笑うのだった。花のように笑うという言葉が彼女にはほんとうだった。
まもなく、料理屋の女中が踊子を迎えに来た。踊子は衣裳をつけて私に言った。
「すぐもどって来ますから、待っていて続きを読んで下さいね。」
それから廊下に出て手をついた。
「行って参ります。」
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因为只有我们两个人,一开始她离得远远的,伸长了手落子,可渐渐地她玩得出了神,全神贯注地俯在棋盘上。她那美得有些不自然的黑发几乎触到我的胸脯。突然,她的脸涨得通红。“对不起,要挨骂了。”说着,她扔下棋子,飞奔出去。妈妈正站在公共浴场前面。千代子和百合子也慌慌张张地从浴池里出来,没上二楼就逃回去了。这天,荣吉在我的房间里从早晨一直玩到傍晚。纯朴而又亲切的旅馆老板娘忠告我说,请这样的人吃饭,不值得。晚上,我到小客栈去,舞女正在跟妈妈学弹三弦。她看见我就停了下来,听了妈妈的话
又抱起三弦。每当她的歌声稍微高亢些,妈妈就说:“不是跟你说不要提高嗓门的吗?”从这边可以望见荣吉被叫到对面饭馆二楼的宴席上去了,正念着什么。“念的是什么?”“那是——谣曲呀。 ”“念谣曲?奇怪。 ”“他是个多面手,谁料得到会唱出什么。 ”这时,一个四十岁左右的汉子打开隔扇,请姑娘们去吃饭。他租借了小客栈的房间,经
营着一家鸡肉店。舞女和百合子一起拿着筷子到隔壁的房间去吃店里剩下的鸡肉火锅。她们
返回这边房间的时候,鸡肉店老板轻轻拍了拍舞女的肩膀。妈妈露出骇人的面容,说道:“喂,不要碰这孩子!她还是个黄花闺女呢。 ”舞女喊着“大伯,大伯”,求鸡肉店老板给她读《水户黄门漫游记》。可是他很快就站起
身走了。舞女不好意思直接对我说“接着给我读下去呀”,所以她一个劲儿地求妈妈,好像要妈妈替她求我似的。我怀着期待的心情,拿起了故事书。舞女果然轻快地靠到我身边。我一开始读,她就把脸凑过来,几乎贴到我的肩膀,表情十分认真,闪闪发亮的眼睛一眨也不眨,专注地凝视着我的额头。这似乎是她请别人读书时的习惯动作。刚才和鸡肉店老板也几乎是脸贴着脸。这个我一直在看着。她那双又黑又亮的大眼睛,闪动着美丽的光芒,这是她全身最美的地方。双眼皮的线条美得无法形容。而且她笑起来像朵花似的。用“笑起来像朵花似的”这句话来形容她,是最恰当不过的了。
不久,饭馆的女侍接舞女来了。舞女穿好衣裳,对我说道:“我马上就回来,请你等着,
接着给我读下去。 ”然后走到廊下,垂下双手行了个礼。“我去啦。”
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「決して歌うんじゃないよ。」とおふくろが言うと、彼女は太鼓をさげて軽くうなずいた。おふくろは私を振り向いた。
「今ちょうど声変わりなんですからー。」
踊子は料理屋の二階にきちんとすわって太鼓を打っていた。その後姿が隣り座敷のことのように見えた。太鼓の音は私の心を晴れやかに踊らせた。
「太鼓がはいるとお座敷が浮き立ちますね。」とおふくろも向こうを見た。
千代子も百合子も同じ座敷へ行った。
一時間ほどすると四人いっしょに帰って来た。
「これだけー。」と、踊子は握りこぶしからおふくろの掌へ五十銭銀貨をざらざら落とした。私はまたしばらく「水戸黄門漫遊記」を口読した。彼らはまた旅で死んだ子供の話をした。水のように透き通った赤ん坊が生まれたのだそうである。泣く力もなかったが、それでも一週間息があったそうである。
好奇心もなく、軽蔑も含まない、彼らが旅芸人という種類の人間であることを忘れてしまったような、私の尋常な好意は、彼らの胸にもしみ込んで行くらしかった。私はいつの間にか大島の彼らの家へ行くことにきまってしまっていた。
「爺さんのいる家ならいいね。あすこなら広いし、爺さんを追い出しとけば静かだから、いつまでいなさってもいいし、勉強もおできなさるし。」なぞと彼ら同士で話し合っては私に言った。
「小さい家を二つ持つておりましてね、山のほうの家はあいているようなものですもの。」
また正月には私が手伝ってやって波浮の港で皆が芝居をすることになっていた。
彼らの旅心は、最初私が考えていたほどせちがらいものでなく、野のにおいを失わないのんきなものであることも、私にわかって来た。親子兄弟であるだけに、それぞれ肉親らしい愛情でつながり合っていることも感じられた。雇い女の百合子だけは、はにかみ盛りだからでもあるが、いつも私の前でむっつりしていた。
夜半を過ぎてから私は木賃宿を出た。娘たちが送って出た。踊子が下駄を直してくれた。踊子は門口から首を出して、明るい空を眺めた。
「ああ、お月さま。ー明日は下田、うれしいな。赤ん坊の四十九日をして、おっかさんに櫛を買ってもらって、それからいろんなことがありますのよ。活動へ連れて行って下さいましね。」
下田の港は、伊豆相模の温泉場なぞを流して歩く旅芸人が、旅の空での故郷としてなつかしがるような空気の漂った町なのである。
第五章
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“千万不要唱啊。”妈妈说道。舞女提着鼓,微微点了点头。妈妈回过头来对我说道:“她现在正好在变声……”舞女端坐在饭馆的二楼,打着鼓。从这边看去,她的背影好像就在相邻的宴席上一样。
鼓声使我的心欢畅激越起来。“鼓声一响,宴席就变得欢快了。”妈妈也望着对面。千代子和百合子也到那个宴席上去了。大约过了一小时,四个人一同回来了。“就这一点儿……”说着,舞女把紧紧攥在手心里的五角钱银币放到妈妈的手掌上。我
接着读了一会儿《水户黄门漫游记》。他们又谈起了在旅途中死去的孩子。听他们说,那孩子出生的时候,像水一样透明,哭的力气也没有,不过还是活了一个星期。我对他们既没有好奇心,也不蔑视,完全忘记了他们是巡回艺人一类的人。我这种寻常的善意似乎深深地沁入了他们的内心。不知不觉之间,已经决定我要到大岛他们的家里去。“如果是老爷子住的那间就好啦。那里很宽敞,要是能把老爷子撵走就很安静,住多久
都行,也可以专心学习。”他们彼此商量了一番,然后对我说道:“我们有两间小房子,山那边的房子是空着的。 ”他们还说,正月里让我帮他们的忙,因为大家要在波浮港演戏。我渐渐明白,他们的旅途并不像我最初所想的那样艰难困苦,而是一种不失田间野趣,
悠闲自在的生活。他们是母女兄妹,有一种骨肉之情将他们彼此维系在一起。只有雇来的百合子极其腼腆,在我面前总是闷声不响的。过了半夜,我起身离开小客栈。姑娘们出来送我。舞女替我摆好了木屐。她从门口探出头来,望了望明净的天空。“啊,月亮。——明天就到下田了,太高兴了!给宝宝做七七,让妈妈给我买把梳子,还有好多事呢。你带我去看电影好吗?”对漂泊在伊豆、相模各个温泉浴场的巡回艺人来说,下田港便是他们旅途中的故乡,是个飘荡着令人怀恋的气息的小镇。
第五章
22
芸人たちはそれぞれに天城を越えた時と同じ荷物を持った。おふくろの腕の輪に小犬が前足を載せて旅慣れた顔をしていた。湯ヶ野を出はずれると、また山にはいった。海の上の朝日が山の腹を温めていた。私たちは朝日のほうを眺めた。河津川の行く手に河津の浜が明るく開けていた。
「あれが大島なんですね。」
「あんなに大きく見えるんですもの、いらっしゃいましね。」と踊子が言った。
秋空が晴れ過ぎたためか、日に近い海は春のようにかすんでいた。ここから下田まで五里歩くのだった。しばらくの間海が見え隠れしていた。千代子はのんびりと歌を歌い出した。
途中で少し険しいが二十町ばかり近い山越えの間道を行くか、楽な本街道を行くかと言われた時に、私はもちろん近路を選んだ。
落葉ですべりそうな胸先き上りの木下路だった。息が苦しいものだから、かえってやけ半分に私は膝頭を掌で突き伸ばすようにして足を早めた。見る見るうちに一行は遅れてしまって、話し声だけが木の中から聞こえるようになった。踊子が一人裾を高く掲げて、とっとっと私について来るのだった。一間ほどうしろを歩いて、その間隔を縮めようとも伸ばそうともしなかった。私が振り返って話しかけると、驚いたようにほほえみながら立ち止まって返事をする。踊子が話しかけた時に、追いつかせるつもりで待っていると、彼女はやはり足を止めてしまって、私が歩き出すまで歩かない。道が折れ曲がって一層険しくなるあたりからますます足を急がせると、踊子は相変わらず一間うしろを一心に登って来る。山は静かだった。ほかの者たちはずっと遅れて話し声も聞こえなくなっていた。
「東京のどこに家があります。」
「いいや、学校の寄宿舎にいるんです。」
「私も東京は知ってます、お花見時分に踊りに行ってー。小さい時でなんにも覚えていません。」
それからまた踊子は、
「お父さんありますか。」とか、
「甲府へ行ったことありますか。」とか、ぽつりぽつりいろんなことを聞いた。下田へ着けば活動を見ることや、死んだ赤ん坊のことなぞを話した。
山の頂上へ出た。踊子は枯れ草の中の腰掛けに太鼓を降ろすと手巾(ハンカチ)で汗をふいた。そして自分の足のほこりを払おうとしたが、ふと私の足もとにしゃがんで袴の裾を払ってくれた。私が急に身を引いたものだから、踊子はこつんと膝を落とした。かがんだまま私の身の回りをはたいて回ってから、掲げていた裾をおろして、大きい息をして立っている私に、「お掛けなさいまし。」と言った。
腰掛けのすぐ横へ小鳥の群が渡って来た。鳥がとまる枝の枯れ葉がかさかさ鳴るほど静かだった。
「どうしてあんなに早くお歩きになりますの。」
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艺人们仍旧各自拿着越过天城山时拿的行李。小狗把前腿搭在妈妈交抱着的双臂上,露出惯于旅行的神态。离开汤野,又进入了山区。海上的旭日温暖着山腰。我们向旭日望去,在河津川前方,河津的海滨清晰地展现在眼前。
“那就是大岛。 ”
“看上去多么大!你一定来啊。”舞女说道。
或许是因为秋季的天空过于晴朗的缘故,邻近太阳的海面上,像春天一样笼罩着一层霞光。从这里到下田,要走二十多公里。有一段时间,大海时隐时现。千代子悠闲地唱起歌来。
途中有一条山口的近道,略为险峻却可以缩短大约两公里的路程;他们问我:是走近道,还是走平坦的大道?我当然选择了近路。
这是一条林间小径,陡峭得地面紧挨着胸口,而且落叶遍地,极易滑倒。我走得气喘吁吁,反而有点豁出去了,我用手掌抵着膝盖,加快了步伐。眼看着他们一行人落在我的后面,只能听见从林间传来的说话声。舞女独自一人高高卷起下摆,急匆匆地跟着我。她走在我身后一两米远的地方,既不想缩短这距离,也不想拉开距离。我回过头去和她说话,她吃了一惊似的微笑着,停下脚步回答我。舞女说话的时候,我便等着,希望她赶上来,可她却依旧止步不前,直到我继续向前走,她方才迈步。道路曲曲折折,更加险峻了,我越走越快,舞女仍然在后面一两米远的地方,专注地攀登着。山静悄悄的。其他的人远远地落在后面,连说话声也听不见了。
“家在东京的什么地方?”
“不,我住在学校的宿舍里。 ”
“我也去过东京,赏花时节去跳过舞——那是在小时候,什么也记不得了。 ”
接着舞女又断断续续地问了我许多问题:“你父亲还在吗?”“你有没有去过甲府?”她还谈起到了下田要去看电影,以及死去的孩子等等话题。
来到山顶,舞女将鼓放在枯草丛中的凳子上,用手巾擦去汗水。她想要掸去自己脚上的尘土,却突然在我的脚边蹲下,替我抖了抖裤裙的下摆。我慌忙向后退去,舞女扑通跪在地上,弯着腰,给我掸掉周身的尘土,然后放下卷着的下摆,对站着直喘粗气的我说道:
“请坐吧。”
一群小鸟飞到凳子的近旁。四周一片静寂,鸟儿落在枝头上时,枯叶的沙沙声都清晰可闻。
“为什么走得那么快?”
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踊子は暑そうだった。私が指でべんべんと太鼓をたたくと小鳥が飛び立った。「ああ水が飲みたい。」「見て来ましょうね。」しかし、踊子はまもなく黄ばんだ雑木の間からむなしく帰って来た。「大島にいる時は何をしているんです。」すると踊子は唐突に女の名前を二つ三つあげて、私に見当のつかない話を始めた。大島
ではなくて甲府の話らしかった。尋常二年まで通った小学校の友だちのことらしかった。それを思い出すままに話すのだった。十分ほど待つと若い三人が項上にたどりついた。おふくろはそれからまた十分遅れて着いた。下りは私と栄吉とがわざと遅れてゆっくり話しながら出発した。二町ばかり歩くと、下
から踊子が走って来た。「この下に泉があるんです。大急ぎでいらして下さいって、飲まずに待っていますから。」水と聞いて、私は走った。木陰の岩の間から清水がわいていた。泉のぐるりに女たちが
立っていた。「さあ、お先きにお飲みなさいまし。手を入れると濁るし、女のあとはきたないだろうと思って。」とおふくろが言った。私は冷たい水を手にすくって飲んだ。女たちは容易にそこを離れなかった。手拭をしぼって汗を落としたりした。その山をおりて下田街道に出ると、炭焼きの煙が幾つも見えた。路傍の材木に腰をおろ
して休んだ。踊子は道にしゃがみながら、桃色の櫛で犬のむく毛をすいてやっていた。「歯が折れるじゃないか。」とおふくろがたしなめた。「いいの。下田で新しいのを買うもの。」湯ヶ野にいる時から私は、この前髪にさした櫛をもらって行くつもりだったので、犬の
毛をすくのはいけないと思った。
道の向こう側にたくさんある篠竹の束を見て、杖にちょうどいいなぞと話しながら、私と栄吉とは一足先きに立った。踊子が走って追っかけて来た。自分の背より長い太い竹を持っていた。
「どうするんだ。」と栄吉が聞くと、ちょっとまごつきながら私に竹をつきつけた。「杖にあげます。一番太いのを抜いて来た。」「だめだよ。太いのは盗んだとすぐわかって、見られると悪いじゃないか。返して来い。」踊子は竹束のところまで引き返すと、また走って来た。今度は中指くらいの太さの竹を
私にくれた。そして、田の畦に背中を打ちつけるように倒れかかって、苦しそうな息をし
ながら女たちを待っていた。私と栄吉とは絶えず五六間先を歩いていた。「それは、抜いて金歯を入れさえすればなんでもないわ。」と、踊子の声がふと私の耳に
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舞女好像觉得很热。我用手指咚咚地敲了敲鼓,小鸟飞走了。“啊,真想喝水。 ”“我去找找看吧。 ”可是,没过多久舞女就从发黄的杂树林间空着手回来了。“你在大岛的时候做些什么?”于是舞女突兀地提起了两三个女人的名字,开始说一些让我摸不着头脑的话。她说的好
像不是大岛,而是甲府的事情。好像是她读了两年的普通小学的朋友们的事。她漫无边际地
想起什么就说什么。大约等了十分钟,三个年轻人爬到了山顶。妈妈又过了十分钟才到。下山时,我和荣吉特意落在后面,慢慢地一边聊天,一边动身。走了两百多米,舞女从
下面跑了上来。“下面有泉水。请赶快来,大家都没喝,正等着你们呢。 ”一听说有泉水,我就跑了下去。清澈的泉水从树荫下的岩石间喷涌而出。女人们都在泉
水的周围站着。“来,请您先喝吧。我怕手伸进去会把水搅浑,在女人后面喝也不干净。”妈妈说道。我用双手捧起这清冽的水来喝。女人们不愿意就这么离开。她们拧干手巾擦了擦汗水。下了山,来到下田的街道上,望见好多处烧炭的烟雾。我们在路旁的木料上坐下来休息。
舞女蹲在路边,用桃红色的梳子梳理着小狗的长毛。“你会把梳齿弄断的!”妈妈责备道。“没关系。在下田买一把新的。 ”还在汤野的时候,我就打算问舞女要这把插在她额发上的梳子,所以我觉得用它来梳理
狗毛可不成。我和荣吉看见马路对面堆着很多捆的矮竹,便说着“做手杖正合适”,抢先一步站起身来。
舞女跑着追上来,拿起一根比自己还长的粗竹子。“你干什么?”荣吉这么一问,她有点张皇失措,把竹子递到我面前。“给你做手杖。我挑了一根最粗的。 ”“不行啊。拿了粗的,人家马上就知道是偷的,被发现了可不好。放回去! ”舞女回到堆放竹子的地方,又跑了过来。这回她给了我一根中指粗细的竹子。然后,她
在田埂上像脊背给撞了一下似的打了个趔趄,气喘吁吁地等着其他女人。我和荣吉一直走在前面十多米远的地方。“只要把那颗牙齿拔掉,装上金牙,不就行了嘛。”舞女的声音突然送进了我的耳朵。
26
はいったので振り返ってみると、踊子は千代子と並んで歩き、おふくろと百合子とがそれ
に少し遅れていた。私の振り返ったのに気づかないらしく千代子が言った。「それはそう。そう知らしてあげたらどう。」私のうわさらしい。千代子が私の歯並びの悪いことを言ったので、踊子が金歯を持ち出
したのだろう。顔の話らしいが、それが苦にもならないし、聞き耳を立てる気にもならないほどに、私は親しい気持ちになっているのだった。しばらく低い声が続いてから踊子の言うのか聞こえた。
「いい人ね。」「それはそう、いい人らしい。」「ほんとにいい人ね。いい人はいいね。」この物言いは単純であけっ放しな響きを持っていた。感情の傾きをぽいと幼く投げ出し
て見せた声だった。私自身にも自分をいい人だとすなおに感じることができた。晴れ晴れと眼を上げて明るい山々を眺めた。瞼の裏がかすかに痛んだ。二十歳の私は自分の性質が孤児根性でゆがんでいるときびしい反省を重ね、その息苦しいゆううつに堪えきれないで伊豆の旅に出て来ているのだった。
だから、世間尋常の意味で自分がいい人に見えることは、言いようなくありがたいのだった。山々の明るいのは下田の海が近づいたからだった。私はさっきの竹の杖を振り回しながら秋草の頭を切った。
途中、ところどころの村の入口に立て札があった。――物ごい旅芸人村に入るべからず。
第六章
甲州屋という木賃宿は下田の北口をはいるとすぐだった。私は芸人たちのあとから屋根裏のような二階へ通った。天井がなく、街道に向かった窓ぎわにすわると、屋根裏が頭につかえるのだった。
「肩は痛くないかい。」と、おふくろは踊子に幾度もだめを押していた。「手は痛くないかい。」踊子は太鼓を打つ時の手まねをしてみた。「痛くない。打てるね、打てるね。」「まあよかったね。」私は太鼓をさげてみた。「おや、重いんだな。」「それはあなたの思っているより重いわ。あなたのカバンより重いわ。」と踊子が笑った。
27
我回过头去,看见舞女和千代子并肩走着,妈妈和百合子稍稍落后一些。千代子似乎没有发
觉我回头,说道:“那倒是。你就那样对他说,怎么样?”她们好像在议论我。可能是因为千代子说我牙齿长得不整齐,舞女才提出装金牙的吧。
她们谈论我的长相,我心里倒是感到亲切,并没有为此而苦恼,也不想仔细倾听。她们继续
低声谈了一会儿,我听见舞女说道:“是个好人哪。 ”“是啊,像是个好人。 ”“真的是个好人哪。好人就是好嘛。 ”这话语听起来单纯而又率直,是天真地倾吐情感的声音。这使我自己也由衷地感到自己
是个好人了。我心情舒畅地抬起眼来望了望明朗的群山。眼睑隐隐作痛。二十岁的我一再深刻反省,觉得自己的性格被孤儿根性扭曲了,我无法忍受那种令人窒息的忧郁,才来伊豆旅行的。因此,有人根据社会上的一般意义把我看作好人,我实在是感激不尽。群山明亮起来,快到下田的海滨了。我挥动刚才的那根竹子,削着秋草尖。
途中,各个村庄的入口处都竖着一块牌子。——乞丐、巡回艺人不得进村。
第六章
甲州屋这家小客栈位于下田北口不远处。我跟在艺人们后面登上二楼。这里像是一个阁
楼,没有天花板,坐在临街的窗边,脑袋会碰到屋顶。“肩膀不疼吧?”妈妈三番五次地叮问舞女。“手不疼吧?”舞女做出打鼓时那种优美的手势。“不疼。还能敲,还能敲呢。 ”“那就好。”我试着把鼓提起来。“嗳呀,好重啊! ”“那比你想象的要重。比你的书包还重呢。”舞女笑着说道。
28
芸人たちは同じ宿の人々とにぎやかにあいさつをかわしていた。やはり芸人や香具師(やし)のような連中ばかりだった。下田の港はこんな渡り鳥の巣であるらしかった。踊子はちょこちょこ部屋へはいって来た宿の子供に銅貨をやっていた。私が甲州屋を出ようとすると、踊子が玄関に先回りしていて下駄をそろえてくれながら、
「活動につれて行って下さいね。」と、またひとり言のようにつぶやいた。
無頼漢のような男に途中まで道を案内してもらって、私と栄吉とは前町長が主人だという宿屋へ行った。湯にはいって、栄吉といっしょに新しい魚の昼食を食った。
「これで明日の法事に花でも買って供えて下さい。」
そう言ってわずかばかりの包金を栄吉に持たせて帰した。私は明日の朝の船で東京に帰らなければならないのだった。旅費がもうなくなっているのだ。学校の都合があると言ったので芸人たちも強いて止めることはできなかった。
昼飯から三時間とたたないうちに夕飯をすませて、私は一人下田の北へ橋を渡った。下田富士によじ登って港を眺めた。帰りに甲州屋へ寄ってみると、芸人たちは鳥鍋で飯を食っているところだった。
「一口でも召し上がって下さいませんか。女が箸を入れてきたないけれども、笑い話の種になりますよ。」と、おふくろは行李から茶碗と箸を出して、百合子に洗って来させた。
明日が赤ん坊の四十九日だから、せめてもう二日だけ出立を延ばしてくれと、またしても皆が言ったが、私は学校を楯に取って承知しなかった。おふくろは繰り返し言った。
「それじゃ冬休みには皆で船まで迎えに行きますよ。日を知らせて下さいましね。お待ちしておりますよ。宿屋へなんぞいらしちゃいやですよ、船まで迎えに行きますよ。」
部屋に千代子と百合子しかいなくなった時活動に誘うと、千代子は腹を押さえてみせて、
「体が悪いんですもの、あんなに歩くと弱ってしまって。」と、あおい顔でぐったりしていた。百合子はかたくなってうつむいてしまった。踊子は階下で宿の子供と遊んでいた。私を見るとおふくろにすがりついて活動に行かせてくれとせがんでいたが、顔を失ったようにぼんやり私のところにもどって下駄を直してくれた。
「なんだって。一人で連れて行ってもらったらいいじゃないか。」と、栄吉が話し込んだけれども、おふくろが承知しないらしかった。なぜ一人ではいけないのか、私は実に不思議だった。玄関を出ようとすると踊子は犬の頭をなでていた。私が言葉を掛けかねたほどによそよそしいふうだった。顔を上げて私を見る気力もなさそうだった。
私は一人で活動に行った。女弁士が豆洋燈で説明を読んでいた。すぐに出て宿へ帰った。窓敷居に肘をついて、いつまでも夜の町を眺めていた。暗い町だった。遠くから絶えずかすかに太鼓の音が聞こえて来るような気がした。わけもなく涙がぽたぽた落ちた。
第七章
29
艺人们热情地向住在同一家客栈的人们打招呼。他们也尽是些艺人和跑江湖的。下田港就像是这种候鸟的窝一样。舞女拿铜板给客栈那些蹒蹒跚跚地走进房间来的小孩。我要离开甲州屋的时候,舞女抢先跑到门口,替我摆好木屐,自言自语似的低声说道:
“请带我去看电影吧。 ”
我和荣吉请一个无赖汉模样的男子带了一段路,到了一家旅店,据说老板便是前镇长。洗完澡,我和荣吉一起吃了有鲜鱼的午饭。
“拿这个买些花,明天做法事的时候上供吧。 ”
说着,我拿出一包数目极少的钱来,让荣吉带回去,我必须乘明天早晨的船回东京去。我的旅费已经用光了。我说学校里有事,所以艺人们也不好强留我了。
午饭后还不到三个小时就吃了晚饭,我独自一人过了桥,向下田北面走去,登上下田的富士山,远眺海港。回去的路上,我顺便去了一趟甲州屋,看见艺人们正在吃鸡肉火锅。
“您不尝尝?哪怕只吃一口。虽然女人动过筷子不干净,但以后可以当作笑料嘛。”说着,妈妈从行李中取出碗筷,让百合子去洗。
大家又劝我说,明天是小宝宝的断七日,无论如何再推迟一天动身;可是我把学校当作挡箭牌,没有答应。妈妈不住地说道:“那么寒假的时候大家到船上去接您。请通知我们日期。我们等着您。别去住旅馆。我们到船上接您。 ”
房间里只剩下千代子和百合子的时候,我邀她们去看电影,千代子用手按住腹部,说道:“我身体不好,走那么多路,我吃不消。”她脸色苍白,虚弱无力。百合子则拘谨地低下头来。舞女正在楼下和客栈的孩子们玩耍。一看见我,她就去央求妈妈准许她去看电影,可结果却垂头丧气地回到了我的身边,替我摆好木屐。
“怎么了,就让她一个人陪着去不好吗?”荣吉插嘴道,但是妈妈似乎不答应。为什么一个人不行呢?我实在搞不明白。我走出大门的时候,舞女抚摸着小狗的脑袋。她显得那样冷漠,我都不敢跟她搭话。她好像连抬起头来看我的气力也没有了。
我一个人去看电影。女解说员在煤油灯下读着说明书。我立刻走了出来,返回旅店。我把胳膊肘支在窗台上,久久眺望着夜空下的小镇。小镇黑漆漆的。我觉得似乎有鼓声不断地从远处隐隐约约传来。无缘无故地,我的泪水扑簌簌地滚落了下来。
第七章
30
出立の朝、七時に飯を食っていると、栄吉が道から私を呼んだ。黒紋附の羽織を着込んでいる。私を送るための礼装らしい。女たちの姿が見えない。私はすばやく寂しさを感じた。栄吉が部屋へ上がって来て言った。
「皆もお送りしたいのですが、昨夜おそく寝て起きられないので失礼させていただきました。冬はお待ちしているから是非と申しておりました。」町は秋の朝風が冷たかった。栄吉は途中で敷島四箱と柿とカオールという口中清涼剤と
を買ってくれた。「妹の名が薫ですから。」と、かすかに笑いながら言った。「船の中で蜜柑はよくありませんが、柿は船酔いにいいくらいですから食べられます。」「これをあげましょうか。」私は鳥打ち帽を脱いで栄吉の頭にかぶせてやった。そしてカバンの中から学校の制帽を
出してしわを伸ばしながら、二人で笑った。
乗船場に近づくと、海ぎわにうずくまっている踊子の姿が私の胸に飛び込んだ。そばに行くまで彼女はじっとしていた。黙って頭を下げた。昨夜のままの化粧が私を一層感情的にした。眦(まなじり)の紅がおこっているかのような顔に幼いりりしさを与えていた。栄吉が言った。
「ほかの者も来るのか。」踊子は頭を振った。「皆まだ寝ているのか。」踊子はうなずいた。栄吉が船の切符とはしけ券とを買いに行った間に、私はいろいろ話しかけて見たが、踊
子は掘割が海に入るところをじっと見おろしたまま一言も言わなかった。私の言葉が終わ
らない先き終わらない先きに、何度となくこくりこくりうなずいて見せるだけだった。そこへ、「お婆さん、この人がいいや。」と、土方風の男が私に近づいて来た。「学生さん、東京へ行きなさるのだね。あんたを見込んで頼むのだがね、この婆さんを
東京へ連れてってくんねえか。かわいそうな婆さんだ。伜が蓮台寺の銀山に働いていたんだがね、今度の流行性感冒てやつで伜も嫁も死んじまったんだ。こんな孫が三人も残っちまったんだ。どうにもしょうがねえから、わしらが相談して国へ帰してやるところなんだ。国は水戸だがね、婆さん何もわからねえんだから、霊岸島へ着いたら、上野の駅へ行く電車に乗せてやってくんな。めんどうだろうがな、わしらが手を合わして頼みてえ。まあこのありさまを見てやってくれりゃ、かわいそうだと思いなさるだろう。」
ぽかんと立っている婆さんの背には、乳飲み子がくくりつけてあった。下が三つ上が五つくらいの二人の女の子が左右の手につかまっていた。きたない風呂敷包みから大きい握り飯と梅干とが見えていた。五六人の鉱夫が婆さんをいたわっていた。私は婆さんの世話を快く引き受けた。
「頼みましたぞ。」
31
动身那天的早晨七点钟,我正在吃早饭,荣吉从马路上喊我。他穿着一件印有家徽的黑外褂,这像是为了给我送行而穿上的礼服。不见女人们的身影。一股寂寞的感觉顷刻之间涌上我的心头。
荣吉走进房间,说道:“本来大家都想来送行的,可是昨晚上睡得太迟,早上起不来,就让我道歉来了。她们说冬天等着您,您一定要来呀。 ”
小镇上,秋季的晨风清冷。荣吉在路上给我买了四包敷岛牌香烟、柿子和熏牌口中清凉剂。
“因为我妹妹的名字叫熏子。”他笑嘻嘻地说道。
“在船上吃桔子不好,柿子对晕船有益处,可以吃。 ”
“这个送给你吧。 ”
我脱下便帽,把它戴在荣吉的头上。然后从书包里拿出制帽,展平皱折,我们俩都笑了。
快到码头的时候,舞女那蹲在海边的身影蓦然跃入我的心头。在我们走到她身旁以前,她一动不动。她默默地点了点头。她仍旧是昨晚的化妆,这愈发触动了我的情思。眼角上的胭红给了她那张似乎带着怒色的脸几分稚气的严峻神情。荣吉问道:
“其他人也来了吗?”
舞女摇了摇头。
“她们还睡着吗?”
舞女点点头。
在荣吉去买船票和舢板票的那段时间里,我找了许多话对她说,可舞女却静静地凝望着运河的入海口,一言不发。有好多次,我的话还没说完,她就一个劲儿地点头。
这时,一个建筑工人模样的汉子向我走来。
“老婆婆,这个人不错。 ”
“同学,您是去东京吧。我们信得过您,拜托您把这位老婆婆带到东京去,好吗?这位老婆婆实在可怜。她儿子原本在莲台寺的银矿干活,可惜碰上这次的流感,儿子和媳妇都死了。留下了这样的三个孩子。没法子,我们商量着还是送她回老家去的好。她老家在水户,可是老婆婆什么也弄不清楚,到了灵岸岛,您让她乘上开往上野站的电车就行啦。麻烦您了,我们给您作揖,拜托啦。唉,您见到这副情景,也会觉得可怜的吧。 ”
老婆婆呆呆地站在那里,背上绑着一个吃奶的婴儿。左右手各牵着一个小女孩,小的大约三岁,大的差不多也只有五岁。从她那脏兮兮的包袱里露出大饭团和咸梅来。有五六个矿工在安慰老婆婆。我爽快地答应照顾老婆婆。
“拜托啦。”
32
「ありがてえ。わしらが水戸まで送らにゃならねえんだが、そうもできねえでな。」なぞと鉱夫たちはそれぞれ私にあいさつした。
はしけはひどく揺れた。踊子はやはり唇をきっと閉じたまま一方を見つめていた。私が縄梯子につかまろうとして振り返った時、さようならを言おうとしたが、それもよして、もう一ぺんただうなずいて見せた。はしけが帰って行った。栄吉はさっき私がやったばかりの鳥打帽をしきりに振っていた。ずっと遠ざかってから踊子が白いものを振り始めた。
汽船が下田の海を出て伊豆半島の南端がうしろに消えて行くまで、私は欄干にもたれて沖の大島を一心に眺めていた。踊子に別れたのは遠い昔であるような気持ちだった。婆さんはどうしたかと船室をのぞいてみると、もう人々が車座に取り囲んで、いろいろと慰めているらしかった。私は安心して、その隣りの船室にはいった。相模灘は波が高かった。すわっていると、時々左右に倒れた。船員が小さい金だらいを配って回った。私はカバンを枕にして横たわった。頭がからっぽで時間というものを感じなかった。涙がぽろぽろカバンに流れた。頬が冷たいのでカバンを裏返しにしたほどだった。私の横に少年が寝ていた。河津の工場主の息子で入学準備に東京へ行くのだったから、一高の制帽をかぶっている私に好意を感じたらしかった。少し話してから彼は言った。
「何かご不幸でもおありになったのですか。」
「いいえ、今人に別れて来たんです。」
私は非常にすなおに言った。泣いているのを見られても平気だった。私は何も考えていなかった。ただすがすがしい満足の中に静かに眠っているようだった。
海はいつのまに暮れたのかも知らずにいたが、網代や熱海には灯があった。膚が寒く腹がすいた。少年が竹の皮包を開いてくれた。私はそれが人の物であることを忘れたかのように海苔巻のすしなぞを食った。そして少年の学生マントの中にもぐり込んだ。私はどんなに親切にされても、それを大変自然に受け入れられるような美しい空虚な気持ちだった。明日の朝早く婆さんを上野駅へ連れて行って水戸まで切符を買ってやるのも、至極あたりまえのことだと思っていた。何もかもが一つに溶け合って感じられた。
船室の洋燈が消えてしまった。船に積んだ生魚と潮のにおいが強くなった。まっくらななかで少年の体温に温まりながら、私は涙を出任せにしていた。頭が澄んだ水になってしまっていて、それがぽろぽろ零れ、そのあとには何も残らないような甘い快さだった。
33
“谢谢。我们本来应该把她送到水户的,可是做不到啊。 ”
矿工们纷纷向我道谢。
舢板猛烈地摇晃着。舞女依旧紧闭双唇,凝视着一边。我抓住绳梯回过头来的时候,她想说一声再见,可终究没有说出口,只是又点了点头。舢板回去了。荣吉不停地挥动着我刚才给他的那顶便帽。船远离岸边之后,舞女才开始挥动一件白色的东西。
轮船驶出了下田港,伊豆半岛的南端渐渐地消失在身后,我自始至终一直凭栏远眺着海上的大岛。我觉得,与舞女的别离似乎已经是很久以前的事了。老婆婆怎么样了?我向船舱里望了一望,看见人们正围坐在她的身旁,像是在百般安慰她。我放下心来,走进隔壁的船舱。相模滩上波涛汹涌,一坐下就不时被摇得东倒西歪。船员在四处分发金属的小盆。我枕着书包躺了下来。脑子里一片空白,感觉不到时间的流逝。泪水扑簌扑簌滴落在书包上。脸颊也觉得冷了,只好把书包翻过来。在我身旁睡着一个少年。他是河津一个工厂主的儿子,去东京准备入学考试,所以对戴着一高制帽的我似乎抱有好感。我们谈了几句之后,他问道:
“您遇到什么不幸的事了吗?”
“不,我刚刚和人家分别了。 ”
我非常坦率地说道。即使被别人瞧见我在流泪,我也不在乎。我什么都不想。仿佛只是在一种清寂的满足中静静地沉睡。
不知什么时候海上暗淡下来,网代和热海已经亮起了灯光。我又冷又饿。少年给我打开竹皮包着的菜饭。我好像忘了这是别人的东西,拿起紫菜饭团就吃。然后钻进了少年的学生斗篷里。我产生了一种美妙而又空虚的情绪,无论别人对我怎么亲切,我都可以非常自然地接受。我想,明天一早带老婆婆到上野站,给她买去水户的车票,这也是理所当然的。我感到所有一切都融合为一体了。
船舱的煤油灯熄灭了。船上装载的生鱼和潮水的气味越来越浓。在一片漆黑中,少年的体温温暖着我,我任凭自己泪如泉涌。我的头脑犹如变成了一泓清水,一滴一滴流淌出来,之后什么也不剩,只感到酣甜的快意。
(完)